屋敷では、莉那と嵐と昌也が留守番をしていた。いつの間にか雨が降っていたが莉那は
その雨にあたり痛いと、泣いていた。嵐も試しにあたってみたが確かに針に刺されている
ような小さな痛みがあたったところを通して感じられた。嫌な予感がした。
「この雨、陽の力を?」
「ちょ、ちびがあたったら浄化されちゃうよ」
「ついに始まったか」
 人である昌也は雨にあたりながらくっと奥歯をかみ締めた。現世では陰の気の雨が降り
続いていると凛から聞いたときから、遅かれ早かれこうなる事は予想ついていた。
「何が?」
「天変地異だな。そろそろ、現世じゃ、血の雨が降ってるだろうよ」
「それ、冗談だろ」
 真顔で言った言葉に顔を引きつらせて聞くと、昌也は表情を一転、にっこり笑って嵐を
振り返った。
「うん、冗談」
 いつまでも飄々としている昌也に呆れて嵐は溜め息を吐いた。すぐに真顔に戻った昌也
を見ていると昌也は肩をすくめて雨を掬うように手をさしだした。ただの人である彼には
陽の気などなんともないのだ。
「ま、確証はないからね。でも、可能性もないとは言えない」
「んなことより、どうすればいいよ、これ」
「知らん。たぶん、今回の事に関係していると思うから、な。とりあえず、結界石の支給
と行くか」
 大きさのばらつきのない結界石を選び袋に詰めると嵐に渡した。
「どういうことだよ」
「行ってらっしゃい」
「何で俺が」
「二人でね、莉那ちゃん。お使いだよ」
「はーい」
 素直な莉那に付け入った昌也に性悪男と内側で言うと莉那の首根っこを引っつかんで外
に出た。
「行くぞ」
 狼を出してその背中に乗り後ろに莉那を乗せてどこかに向かった。
「さあ、凛。出てきてくれるかな」
 どこか楽しげにいうと凛はばれてたかとつぶやきながら物影から出てきた。嵐に気づか
れないようにしていたが、さすがに昌也には気づかれていたようだ。
「何でわかったの?」
 聞くと昌也は肩をすくめた。いつものやり取り。こんな非常事態だというのに、あまり
にも変わっていない二人の会話にもし、嵐がこの場を見ていたらなんと言うのだろうかと
凛はふと思った。
「わかるに決まってるだろう」
 凛の腰を引き寄せるとふふと笑った。凛は慣れた事だと恥ずかしげもなく昌也の首に腕
をかけた。
 顔を重ねて唇を重ねるとそのまま抱きしめていた。よくもまあ、こんな非常事態にと呆
れられるだろうか。そう考えつつも押し倒しそうな昌也から体を離して凛は笑った。
「で、どこに行くんだい?」
「藺藤のお屋敷。都軌のお使い」
「はは、いうな」
「いくよ」
 腕を解いて身を翻した。その身代わりの早さに昌也はくすくすと笑って凛の狼に乗った。
 
 
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